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ここでは、PCB廃棄物の処理費用に関する会計処理について解説します。会計処理の際に使用する勘定科目「資産除去債務」とは何かをはじめ、資産除去債務を適用する際の注意点や会計基準、実務的な処理方法などについてまとめているため、参考にしてください。
2001年7月15日に施工されたPCB特別措置法により、PCB廃棄物保管事業者は2027年3月31日までに自ら処分または委託処分することが義務付けられています。また、現在使用しているPCB含有機器については、会計処理の際に資産除去債務という勘定項目で帳簿に計上しなければいけません。
資産除去債務とは、売却・廃棄時に除去費用がかかると判明している有形固定資産を取得した際に、処分費・撤去費などの費用を概算で計上しておく負債のことです。ちなみに資産除去債務の計上が義務付けられているのは、上場企業および上場企業の連結決算に関連する子会社のみとなります。
資産除去債務の計上が必要となるものには、PCB廃棄物のほかに、アスベストやダイオキシン類含有付着物、土壌汚染などがあげられます。
資産除去債務の費用を計上する際、以下の点に注意が必要です。
帳簿に計上する際は、有形固定資産と資産除去債務における消費税の扱いの違いに注意が必要です。有形固定資産と違って資産除去債務は発生した時点だと課税取引に該当しないため、帳簿に資産除去債務を計上するときは税抜きで入力します。資産除去債務の消費税を計上するタイミングは有形固定資産を除去するときで、撤去費・処分費などに消費税が発生します。
有形固定資産と資産除去債務で消費税を計上するタイミングが異なるため、帳簿に記載する際は注意しましょう。
資産除去債務にかかる費用分配額や利息費用は、原則的に損金不算入として扱われます。そのため、履行するまでは税効果を考慮する必要がある点に注意が必要です。
資産除去債務を適用する際の基準として、「企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準」と「企業会計基準適用指針第21号 資産除去債務に関する会計基準の適用指針」が公表されています。実際に適用する際は、どちらの基準も十分に確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを仰ぐようにしましょう。
2008年3月31日に「資産除去債務に関する会計基準」が公表され、2010年4月1日以後の開始事業年度から適用されています。資産除去債務に関する会計基準で定義されている資産除去債務は以下の通りです。
これらの資産除去債務の発生およびその金額を合理的に見積もることが可能な場合、除去を待たずに資産除去債務を負債計上し、対応する除去費用に関連する資産の帳簿価額に加えます。ただし、合理的な見積もりができないうちは資産除去債務の計上は不要です。その場合、資産除去債務を計上できない旨を財務諸表に注記する必要があります。
ちなみに資産除去債務に関する会計基準では、貸借対照表に計上した資産除去債務の内容についても注記事項として簡潔な説明の開示が求められます。合理的に見積もることができるかどうかを問わずに、資産除去債務の内容が開示されることになるため、リスク情報として注目される点に留意しておきましょう。
産業廃棄物処理費にかかる費用の仕訳に使える勘定科目には、「支払手数料」「清掃費」「外注費」「設備維持費」「雑費」などがあげられます。また、産業廃棄物処理を外部委託する際は、「外注費」や「売上原価」として計上します。
どの勘定科目を使用するかは、企業側で設定することが可能。ただし、一度決めた勘定科目を以後の会計処理でも使い続けることになるため、分かりやすく仕分けができるように十分に検討したうえで設定するようにしましょう。自社の産業廃棄物がどの勘定科目に該当するかを検討し、内容に応じたものを選択することが大切です。
適用初年度における期首時点での資産除去債務の算定は以下のように行います。
両者の差額は、原則として特別損失に計上されます。実際の会計処理の例について見ていきましょう。
【前提条件】
【期首時点における資産除去債務の負債計上】
適用初年度(2011年3月期)の期首時点において設備の残存耐用年数は3年のため、資産除去債務として負債計上する金額は除去に要する将来キャッシュフローを割引計算して求めます。
【適用初年度の期首における既存資産の帳簿価額に加算する除去費用】
最初に、資産除去債務の発生時点において計上すべき除去に要する将来キャッシュフローの割引価格を計算します。
算出した当初の資産除去債務計上額は、設備の取得時において設備の帳簿価額に加算すべき金額です。次に、当該金額に取得日以降から期首までの減価償却相当額を計算します。
当初の資産除去債務計上額から期首までの減価償却相当額を控除した金額が、適用初年度の期首において資産の帳簿価額に加算する除去費用となります。
さらに、期首時点における資産除去債務の計上額と資産の帳簿価額に加算する除去費用の差額を算出し、特別損失として計上します。
適用2年目以降の処理については、以下の事象が生じた場合、資産除去債務の修正が必要です。
初年度に計上している資産除去債務の金額に関しては、経過年数や市場の相場の変動、また技術的進歩や物価高騰など様々な要因によって、時間経過と共に差額が発生するかも知れません。そのような場合、過年度遡及会計基準が定める「会計上の見積りの変更」に該当するため、2年目以降の決算においては前年度の資産除去債務の残高と、新たに取得された情報にもとづいて、改めて見積額の変更と計上を行わなければなりません。
なお、この見積り変更は2年目のみに限らず金額変更が認められる際に行わなければならず、決算の都度に変更の要否をチェックすることも必要です。
建物の所有者と期間を定めることなく賃貸借契約を結んで、物件を利用していた際、資産除去債務の計上については退去予定日が未定であったため、履行時期を定めることなく、賃借建物の経済的耐用年数などにもとづいて資産除去債務を計上していたとします。
しかしその後の事業計画の見直しで退去・移転が決まった場合、履行日も変更されるために再見積りが必要です。
定期借地契約によって物件の賃貸借契約の期間が定められており、契約終了時に除去を行うという想定で資産除去債務を見積もっていたとします。しかし、物件を利用している借主の事業が好調となって定期借地契約の満了と同時に再契約を行った場合、資産除去の履行日も延長されるために見積額にも見直しの必要性が生じるでしょう。
様々な要因から割引前の将来キャッシュフローについて重要な見積りの変更が必要になった場合、調整額は資産除去債務の帳簿価額と関連有形固定資産の帳簿価額などに照らし合わせて適切に処理されなければなりません。なお、実際の見積り変更の会計処理についてどのように扱うべきかは、大きく以下の3つのパターンに分けられます。
プロスペクティブ・アプローチもしくはプロスペクティブ方式とは、資産除去債務の見積りの変更により生じた調整額を、資産除去債務にかかる負債や関連有形固定資産の帳簿価額に加減し、減価償却によって残存耐用年数に費用配分する処理方法です。
例えば耐用年数を30年として減価償却を行っていた場合、耐用年数と当期の期間差を考慮して当期以降の将来期間に費用配分を行います。
しかし、改めて合理的な検証を行った結果、耐用年数が30年でなく20年であった場合、当然ながら事後的な変更によって合理的な耐用年数(20年)にもとづいて見積額を変更しなければなりません。
キャッチアップ・アプローチとは、資産除去債務の見積りの変更によって生じた調整額を、資産除去債務にかかる負債及び有形固定資産の残高に反映させた上で、その調整効果を一時的な損益として処理する方法です。キャッチアップ・アプローチは、適用初年度の期首残高の調整方法として採用される方法となります。
変更時の損益にするキャッチアップ・アプローチに対して、プロスペクティブ・アプローチは変更時点の簿価を合理的に変更した期間にもとづいて償却する点で両者が区別されます。
レトロスペクティブ・アプローチは、見積りの変更を過年度へさかのぼる形で修正する遡及的処理です。日本国内の会計処理としては一般的でない方法といえます。
そもそも国際的な会計基準によって、会計上の見積りの変更は将来に向けて修正される方法が採用されることになっており、日本国内の処理においても影響額を変更後残存耐用年数によって処理することが妥当とされている点に注意してください。
※参照元:【PDF】企業会計基準第 18 号資産除去債務に関する会計基準(平成20年3月31日企業会計基準委員会)https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/aro.pdf
変更によってキャッシュフローが増加する場合、割引率はその時点のものを採用します。一方、キャッシュフローが減少する場合、負債計上時の割引率が適用されます。
ただし過去の影響などで割引率を特定できない場合には加重平均によって割引率を決定する点に注意しましょう。
なんとなく近隣の産廃業者を選びがちですが、期限や予算組みを考えると、短期間で確実に処理を完了させられる可能性の高い事業者への依頼がおすすめです。
その指標として、処理能力の高い業者(グループ単位)上位3社(※1)をピックアップしました。低濃度PCB処理における「ビッグスリー企業」への依頼を視野に入れ、スムーズにPCBの廃棄を完了させてしまいましょう。
※1 2021年3月時点、当サイト調べによる。PCB廃油・処理物の1日あたり処理量が最も多い企業およびグループ
※2 2021年3月時点、当サイト調べによる。処理場ひと施設あたりのPCB廃油・処理物の1日あたり処理能力が最も高い